「3足1,000円の靴下」
おそらく、ほとんどの人が一度は手に取ったことがあると思う。
安くて手に入りやすくて、そこそこ使える。まさに最強の”コスパ”だ。
でも実は──
僕たちのような靴下づくりをしている身からすると、ちょっとだけ困る存在でもある。
■驚異的な価格の裏にあるもの
まず最小に伝えておきたいのは「3足1000円の靴下」が悪いという話ではない。
むしろ、あの価格で供給し続けていること自体、すごい企業努力の結晶だと思う。
いったいどこで作られているのか──
多くはアジア圏の工場。日本よりも人件費が安く、何百台といった編み機といった大量生産の体制が整った場所で、効率よく作られている。
ここからは、あくまで僕の憶測であることを留意いただきたい。
大量生産の現場で求められるのは「質」よりも「量」。
どれだけ速く、どれだけ多く、そしてどれだけ安く。
その勝負の中で、生産現場は常に納期と戦い、価格交渉にさらされ、そのプレッシャーはどんどん下請けまで波及していく。
以前の記事で書いたように、靴下を作りには多くの工程があるため、その工程ごどで同じプレッシャーを強いられることになる。
だた、何度も言うがそれが悪いとは思わい。実際にそういった靴下を必要としている人がいて、一定の品質もクリアしているわけだから。
問題は──
僕たち自身が、そのやり方を「好きかどうか」っていうところかなと思う。
■好きか、好きじゃないか
靴下の作り方に正解なんてない。
大量に作って、安く届ける。そのおかげで多くの人の足元が守られているのも事実だ。
でも、僕たちは──
やっぱり好きになれない。
大量にこなすより、少量でもちゃんと作りたい。
時間はかかっても、手間はかかっても「いいモノづくり」にこだわっていたい。
それが、僕たちの“好み”だ。
■なぜ、少量でも”いいモノ”をつくるのか
僕たちがいいモノを作ることにこだわる理由はいくつかある
・創意工夫や細かいこだわりを詰め込むことができる
・決して安くないからこそ、お客様もしっかり調べて、すごく考える
・購入前に「これはどういうところがいいの?」と聞いてくれる
・そのやり取りの中で、使い方や価値を一緒に考えることができる
・実際に履いて「すごくよかった。買ってよかった」と言ってもらえると、心から嬉しい
・そして何より──自分たちがつくった靴下に、ちゃんと愛着が持てる
そんな風に、お客さんと近くで向き合える靴下づくりが、僕たちは好きというわけだ。
■広陵町にはいろんな”好き”がある
奈良県広陵町には本当にたくさんの靴下工場がある。
そして、それぞれの会社にそれぞれの「好きなやり方」がある。
量をこなすのが得意なところもあれば、機能性に振り切っているところもある。
ファッション性を重視するところもあれば、ひたらすら品質を突き詰めるところもある。
だからこそ──
どんな会社で働くかよりも、「どんな価値観の会社で働くか」が大事になってくる。
靴下づくりのスタイルって実はものすごく幅が広い。
自分の”好き”と会社の”好き”がズレていると、毎日がちょっとしんどくなる。
■僕たちは「いいモノを作り続ける」
僕たちはこれからも「少量でも、ちゃんといいモノを作る」という姿勢を変えるつもりはない。
効率ではない。価格でもない。
“履く人のことを想ってつくる”ことに、誇りを持ち続けたい。
「3足1000円」があって「1足2000円」もあっていい。
大切なのは、その靴下に込められた想いと作る人の信念だと思う。
そして、僕たちはこれからも、自分たちの”好き”を大事に靴下を編み続けていく。