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【後編】靴下クリエイターへのインタビュー記事

2025.08.28

前編はこちら。


■アスリートからの痛烈なフィードバックが、技術屋魂に火をつける。

ーOLENOの開発がスタートした時のことを教えてください。

最初は人間の足の形を徹底的に見つめ直しました。

えば、一般的な靴下のつま先部分の縫い目は横一直線になっていると思うのですが、人間の足は親指を頂点にして、小指まで斜めのラインになっていますよね。

フィット感を高めるためには、この斜めのラインを再現する必要がありました。

靴下はつま先部分と足の甲部分から足首部分までに相当する筒状パーツの2つを別々に編上げて、最後に縫製して靴下になります。

斜めにするためには、元から両方を斜めに作れば良い。と思うかもしれませんが、編み機は構造上直線的に編み上げることが基本なので、それはできませんでした。

なので、素材と編み方を変えることで、実際に靴下を履いた時に斜めにフィットするように検討しました。

どの素材をどのように編めば斜めにフィットするのかを考えて、1分間に200回転するシリンダーの織パターンと糸配置のプログラムを組んで、テスト製造して、みたいな感じです。

ただ斜めのラインに沿わせるだけで、何週間も試行錯誤しました。

結果的に、親指側の足横は伸縮する素材と縫い目も緩くして伸びるように、小指側は逆にして伸びないようにすることで斜めにフィットさせることができました。

そんな試行錯誤の連続でした。

ーOLENOの最初のユーザーリアクションはどうでしたか?

例えば、五本指靴下を履くとフィットしないから五本指靴下は苦手という方が、OLENOはゆったり履けて良いというような感想をくれたこともありました。

OLENOは本当に良いユーザーさんに恵まれまして、アスリートとして高みを目指す方々が、自分ゴトとして製品に対して良し悪しを教えてくれました。

中途半端な改良や「靴下の常識」みたいなものでは許してくれませんでした。

それだけOLENOに期待してくれていると思うと、こちらとしても応えないわけにはいかなくなりまして、ご要望やご意見に対して、あの機械ならできるのではないか?あの素材なら?プログラムから見直すか?という開発者としての意地で応えて行こうと思いました。

無茶ぶりと言いますか、逆に「靴下はこういうものだ」という固定観念に囚われず、純粋にアスリートが愛用したいと思うギアとしての率直な意見を頂いていたので、本当に多くのことを学ばせて貰いました。

幸いなことに、要望に答えることが出来るかもしれないロナティの編み機と編み機の技術がありましたので、後は挑戦を繰り返すのみという状況でした。

毎回頭を抱えていますが(笑)

■ホンモノであるために、手間とこだわりはありったけで。

ーOLENOシリーズの中で、隠されたこだわりなどありますか?

全部です!

けど、例えば普通の靴下は製造したら洗わずそのまま出荷しますが、「アルティメットASO」はすべて一度洗濯しています。

理由は、「ASO」の中に使われている「ナノフロント®」は髪の毛の7500分の1程の極細の繊維を束にしているのですが、製造の過程で油が使われているので、そのまま滑り止めを足裏に貼りつけてしまうと、ハードに履き続けた時に滑り止めが剥離してしまうからです。

最初はただ滑り止めが取れたというユーザーさんのご意見から、原因を究明していったところ、油が原因だと分かりました。

洗濯の分、もちろん手間は増えるのですが、究極まで挑戦を続けるアスリートの方や、砂漠を何十キロも走る方にとってベストとは何かを考えた結果、工程を増やして製造することにしました。

あとOLENOの指部分の縫製は少し変わっていて、通常の五本指靴下では縫製後に極わずかな布の余りが靴下内に出てきますが、OLENOはロナティで可能な特殊な編み方をしていまして、内部の余りを出すことなく立体的に縫い上げ、着用時のフィット感を高めています。

これに気づいた方はいませんが…(笑)

それと、足裏の滑り止めは絶妙な配置だとよく褒めて頂くのですが、あれは実は社長が見様見真似でデザインしたもので、結果的にベストだったものです。

そういった偶然に最適なものが出来上がったりもしています。

しかし滑り止めもご意見を元に、素材は複数回変えていまして、現在最も剛性が高いものを選択しています。より良い素材があれば、また変えるかもしません。

ユーザーさんにとって「ホンモノ」であるために選択したものだけで、OLENOシリーズは出来ています。

■アスリートと一緒に、OLENOは進化し続ける。

ー能丸さん自身もトレイルランナーであることも、開発へのこだわりに影響していますか?

実は、トレイルランニングという競技も最初は知りませんでした。

OLENOがスタートする数年前に社長と富士山に登ったのですが、山頂に着いた時には社長から2時間も遅れていました。下山の時も膝が痛くてまた1時間遅れてしまって。帰り道は運転もできませんでした。

その後、スポーツに特化したOLENOと言うブランドを立ち上げるという方針が決まりまして、開発中の商品を初めて練習会に持ち込んで、そのまま自分も走者として参加させていただく機会がありました。

自分は相変わらず、普段全く運動をしない状態で知識も体力も無く、当然協力いただいたみなさんと同じペースで走れるはずもなく、みなさんを何時間も待たせてしまい、これではダメだと思い少しづつ走るようになり、気づけば自分も110kmのレースに出場するようになっていました。

今も新商品は必ず自分で試して、アスリートのみなさんの愛のムチを頂き、試行錯誤しながら開発を続けています。

同じ目線で商品開発することで、より細かい部分まで踏み込めると信じています。